とあるお人形のお話
コルテスの住む街には、生まれ故郷を離れて住みついた者たちが少なからずいた。海を臨む街に集う目的は数多ある。物品を卸しに来た商人やそれを運ぶために雇われた運び屋、そして大海原へ独自の路を描いて旅立つ船人。みな屈強な体つきをし、そしてほぼ全てが街の外から訪れた者たちだった。
関所というものは便利であり、通行料を納めさせることと街に立ち入る者の管理が同時にできてしまう。まだコルテスは市制の裏道をよくは知らなかったため、その素晴らしさに目を輝かせていたものだ。街を訪れる珍しい風貌の者たちを目に焼き付けるかのように観察していた。
「もし、そこの」
受付のカウンターの内側でその日も来訪客たちを眺めていたコルテスは、かけられた声にすぐ気がついた。まだ幼くとても関所の役人には見えない上少し離れた場所にいるものだから、外側から声をかけられること自体希有だったことも理由の一つだろう。ソプラノの、どこか落ち着いた子供の声にコルテスは振り向いた。
「どうかしまし、――」
きめ細かく透き通るような白い肌。美しく整えられた金糸。一級品の値が付けられないビスクドールのような容貌に、コルテスは言葉を失った。歳はコルテスと同じか少し上くらいだろうか。少女のような繊細さをもつというのに、凛とした雰囲気の服装も似合っている。もう少し成長した姿なら、男装の麗人と称されるに違いないだろう。
突然言葉を切ったコルテスを不審に思ったのだろうか、やや首を傾げながら鈴の音のような軽やかで心地よい声が少しの困惑を交えて発せられた。
「よければ教えてくれ給え。この街で一番大きな港へ行くには、どうするのが一番早い?」
「……受け付けは、」
「済ませている」
支配階級の子女の嗜みとされるたおやかな口調は片鱗すら見られなかったが、凛々しい彼女にはよく似合っているように思える。歯切れよく明瞭に放たれる声は、コルテスに来訪者観察を放り出させるには十分すぎる魅力に満ちていた。
コルテスは一言彼女に待っているように告げ、腰かけていた高い椅子から飛び降りる。そのままスタッフルームを駆け抜けて、一目散に彼女の元へと走り抜けた。少し荒げた息を最後の二、三歩で整える。彼女は少しばかり目を丸くした。長い睫に縁取られた大きな瞳がより一層大きく見える。美しい、青を孕んだ碧だった。
「よかったら、俺が案内するが」
「……それは助かる。是非ともそうしてくれ給え」
彼女は綺麗に破顔した。女性の浮かべる微笑みのようなものではなく、無邪気な子供が前面に喜色を塗りたくったような明るい笑みである。
この街に来て港へ行こうというのだから、どこかの商人の娘なのかもしれない。しかし服装を考慮するなら偶然ここへ遊びに訪れた貴族の子女である可能性もあったし、まだまだ一般的ではないが将校を目指している可能性もあった。
「私の名はイドルフリート=エーレンベルク。イド、と呼んでくれ給え!」
尽きることのない彼女への想像を膨らませていたコルテスに笑みを浮かべたまま手を差し出した彼女の口から出た名は、とてもではないが女の名とは思えない。ぎこちない手つきで握り返したものの、案内すると言い出したのに手を引かれていたのはコルテスの方だった。
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その顔でその性別は詐欺だろう!
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